電子書籍時代、取次の役割は?、トーハンシステムアドバイザー坂村健東大教授に聞く

電子書籍の普及で取次の「中抜き」が懸念されている。電子書籍の取次事業参入に向けて、出版取次大手のトーハンはシステム開発や出版関係者らとの意見交換会に積極的に取り組んでいる。トーハンのシステム開発をアドバイスする、東大の坂村健教授に日経MJが聞いている。

・日本の出版環境をどうみる

 「日本ほど多様な本がこれほどの安価で手に入る国はない。多くの国では本は高価なため、自分で買うのではなく、図書館で借りるものとなっている。日本の恵まれた読書環境を支えている仕組みを守ることは本格的な電子書籍時代も不可欠だ」

・電子書籍時代になれば、流通を担う取次は不要という声も少なくない

 「取次の機能は単に流通だけではない。出版社を育てるインキュベーション機能にも目を向ける必要がある」
 「多くの中小出版社はベンチャー企業のようなもの。取次は世に出た本を広く書店に配本し、出版社の資金繰りがうまくいくように支援している。日々の資金繰りを助ける取次のファイナンス機能がなければ、売れるかどうか分からない本の出版を続けることはできない」

・電子書籍の普及で取次が廃れることになれば

 「スター作家とアマチュアしかいない世界になるのではないか。取次のファイナンス機能がなくなれば、出版社が担っている作家の育成などの機能もままならなくなるだろう」

・電子書籍が本格的に普及するのはいつか

 「端末の出来具合などをみると、あと10年くらいかかるのではないか。紙と電子の共存が出版社の経営体力を奪うのは間違いない。日本の出版業界は従来の優れた点を生かしつつ、デジタル化に対応すべきだ。新たな電子書籍のビジネスモデルをつくり、世界に広げるくらいの意気込みが必要だ」
 「『iPad(アイパッド)』などの端末にばかり関心が集まっているが、端末だけでビジネスは成立しない。端末を作る電機メーカーにコンテンツの流通までを握られるようでは日本の優れた出版文化を守ることはできない。電子書籍の時代でも、出版社や作家を育てる取次は絶対に必要だ」

年間8万点の新刊を出版し4割が返本という出版業界の現状。「何でもあるけど、欲しいものは何もない」。今年の東京国際ブックフェアで基調講演した作家の佐野真一氏はこう揶揄した。4000近くある出版社が自由に本を出すことができるのは取次の存在に追うところが大きい。ただ、書店の棚にまともに並ぶことのない本が相次ぐことが昨今の出版不況の大きな原因となっている。
流通コストが不要になる電子書籍が出版社の粗製乱造をあおる懸念は大きい。取次に目利きとしての役割がさらに強く求められることは間違いない。

さかむら・けん 1979年慶大大学院博士課程修了。1996年東大教授。コンピューターの新体系トロン構築。2002年からYRPユビキタス・ネットワーキング研究所長。58歳

2010/07/21,日経MJより

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