注目を浴びる3D映像。新しい技術と思われがちだが、すでに20年以上の歴史を持つ企業がある。ソニー子会社で映像制作を手掛けるソニーPCL(東京・品川)だ。長年の技術の蓄積を生かそうと事業拡大に乗り出した。
実は3D映像をつくること自体は難しくない。人の両目のように2台のカメラを並べて撮影し、それぞれの映像を連続的に表示すれば立体的に見せることは可能。だが長時間、見続けても目が疲れないなど「快適なコンテンツをつくるのは難しい」(PCLの大場省介・3D戦略室チーフプロデューサー)。そこでPCLの技術の蓄積が武器になる。
まず撮影現場。場面ごとに効果的な3D映像の撮影法は異なる。PCLでは「ステレオグラファー」と呼ぶ専門家が現場に同行し、場面に応じてカメラの位置関係を調整。撮影した映像をその場でモニターで確認しながら撮影を進めていく。
撮影後の編集も職人技だ。PCLの映像センターでは技術者が映画館のような編集室にこもり、大型スクリーンに目をこらす。映像の飛び出し感は十分か、画面全体で被写体の前後関係に違和感はないか、色合いは適切か。編集機器を操作しながら、1コマ1コマを丁寧に修正する。
ソニーPCLは1951年創業で映画用フィルムの現像所からスタート。映像コンテンツの企画・制作に手を広げ、1980年代半ばから3D映像の制作に参入した。発電所のPRビデオから長野オリンピックの中継、愛知万博のパビリオンまで様々な仕事をこなし、3D時代の本格到来を見据えノウハウを蓄えてきた。
過去にも何回か3Dブームが到来したが、いずれも定着せずに終わった。だが最近はデジタルデータを送る高速通信の環境が整い、モニターの表示技術も発達。「今回はブームで終わらない」(大場氏)とみて事業拡大に乗り出した。
6月にはカメラなど3D撮影用の機材を7セットから12セットに増設。3D対応専用の編集室も計2室に拡充し、3D映像をBDのパッケージソフトに加工する受託サービスも開始した。「3Dで撮影から制作まで手掛ける企業としてアジア最大」(大場氏)と自負する。
拡大路線を推し進めるのはPCL自身のためだけではない。ソニーは「レンズからリビングルームまで」を掲げ、撮影用カメラから家庭のテレビ、ゲーム機まで製品全般で3D機能を強化する方針だ。ハードの売り上げ拡大には3Dを楽しむ機会を増やす必要があり、コンテンツ制作の前線を担うPCLの役割は高まってきた。
PCLは3Dコンテンツを発注するユーザーの要望をソニー本体の開発部隊にもフィードバック。2012年度に3D関連で1兆円。ソニーグループが掲げる目標の達成に向け、重要な一翼を担っていく構えだ。
2010/08/18, 日経産業新聞より