「文化外交」の体制整備急げ、渡邊啓貴東京外国語大教授

7月初め、今年で11回目の日本のポップカルチャーの見本市「ジャパン・エキスポ」が開催された。このイベントは当初3000人の来場者しかいなかったが、今年は17万人に達する大事業にまで発展した。
ジャパン・エキスポは、日本のアニメやマンガ、DVDなどの商品販売・見本市を中心に、様々な日本関連のイベントが広い会場内で所狭しと繰り広げられる、いわば参加型見本市・夏祭りといった感じの催しである。このイベントを盛り上げているのは、参加者の3分の1を占める中学生や高校生を中心とした「コスプレーヤー」たちである。
出展ブースの数は昨年の500から600に増え、トークショー、コスプレショー、漫画教室、コンサートなどのイベントは650を数える。武道も人気があり、柔道、剣道、合気道、薙刀、そして弓道などのデモンストレーションがあった。

毀誉褒貶はあるが、マンガ・アニメなどのポップカルチャーを入り口として海外における総合的な日本理解が進むことは決して間違ったことではない。今の日本がアニメだけ、あるいは伝統文化だけで語れるとは思われていないからこそ、総合的な日本文化展示に収斂していく方向にあるのだと思う。
ポップカルチャーの是非を論じている段階ではない。その影響力はもはや無視できない現実だ。マンガやアニメを入り口に、日本語を学び、日本の伝統文化に興味を持つ若者がどんどん増えている。在仏日本大使館の現地職員にはそうしたきっかけが今の職につながった者も多い。

国際交流基金の世界最大の拠点、日本文化会館が開館から13年間、フランスにおける日本文化発信本部として多種多様なイベントを企画してきた。しかしここ数年、予算は毎年減額され、事業仕分けの対象にもなった。会館運用基金が返上されたため、毎年の運営費交付金に頼らねばならない状態となった。
各国の対外広報文化予算を比較すると、2008年の統計で中国が国家予算の0.51%(4775億円)、韓国が0.79%(1169億円)に対して、日本はわずか0.12%(1018億円)である。在外公館での文化活動は極めて不自由で、制約が多いのが現実だ。

資金面での問題と同時に、広報文化外交の体制づくりも不可欠である。
第一は、外務省の文化担当専門官の本格的な育成だ。文化交流事業には政府や政治家がかかわることも多く、公式な外交ルートでの情報交換や協力が不可欠である。
第二に、知的交流と日本語の普及は徐々に広がっているものの、まだ十分とはいえない。専門的知識と技術を持ち、行政にも通じている人材の育成が急務だ。
第三に、日本の外交戦略・外交的な見識を海外に伝えていくことが重要だが、この部分も弱い。「平和的な文化大国」としての日本のイメージは、そのための基礎としては十分であるが、主体性と普遍性のある外交見識の育成をどう進めるかが問題である。
最後に、戦略的な地域・分野の優先順位と予算の重点配分は再検討した方がよい。たとえばパリで評価されることは欧州全体、そして世界全体に大きな影響力を持つ。そうした事情も考慮しながら、戦略的な広報文化外交の強化政策と、そのための人材育成が急務である。

わたなべ・ひろたか 1954年生まれ。パリ第一大学博士課程修了。専門は国際関係論

2010/08/23, 日本経済新聞 朝刊より

Comments are closed.