ネット規制の課題―堀部・一橋大名誉教授に聞く
違法・有害サイトのフィルタリングを強化することなどを内容とした、青少年ネット規制法が先の国会で議員立法で成立した。総務省の情報通信法案(仮称)構想でもネットコンテンツを包括的な法の網にかける検討が進んでいる。ネット規制のあり方についての検討課題を、日経が堀部政男・一橋大名誉教授に聞いた要旨。
――情報通信法案の検討は堀部教授が座長を務めた総務省の研究会報告が議論の基礎になっているが。
「放送と通信を区別なく扱うのが法の狙いだが、コンテンツ面では放送に比べネットは社会的影響力は小さい。外部公開されているサイトに限り表現の自由に最大限配慮し、公共の福祉との間で調整する最低限のルールの検討を必要とした。民事上の権利侵害や法令に違反する『違法情報』と、違法とまではいえないが、自殺サイトなど公序良俗に反したり、青少年には好ましくない『有害情報』への対策だ」
「違法情報対策も国による包括的で直接的な規制は当面避け、最低限の配慮事項を刑罰を伴わない形で整備すること。有害情報は緩やかな対応にとどめ、フィルタリングのための第三者機関の制度化を提起した。言論表現活動やネット文化の発展に配慮した」
――法案内容を検討中の総務省の審議会が「中間論点整理」を先月公表し。当面のコンテンツ対策はプロバイダー責任制限法の対象を違法サイト全般に拡大する方向が示されている。議員立法のネット規制法にも違法サイト対策を別途検討する異例の付則条項があるが。
「責任制限法は名誉棄損や著作権侵害など民事上の権利侵害に対応する狙いだ。当事者からの申し立てをプロバイダーやサーバー管理者が業界のガイドラインで判断している。当初は第三者機関や、事前に裁判所に判断してもらう仕組みを検討した経緯があるが、事前判断はやはり難しいという結論だった」
「規制薬物やわいせつ物販売など違法サイト全般となると、対象が大きく広がる。また一般からの通報によってプロバイダーがサイトの閉鎖を求められる。捜査当局への協力なら別だが、何が違法か違法でないかは、直接の被害者が現れていないので判断が難しい。責任制限法の対象の拡大を具体化させる場合、表現の自由との調整問題で相当な議論が必要になるだろう」
――青少年の有害情報対策では議員立法が先行した。
「携帯サイトなどで青少年向けにフィルタリング対象とする違法・有害情報を国の機関が指定するという自民党内の当初案にメディア界が強く反対し、総務相がフィルタリングの原則化を要請し、これに伴って第三者機関として民間の自主的なコンテンツ審査機関が誕生した。欧米では有害情報対策に業界などがお金を出し対応している。日本でもようやくスタートした形だが、通信にかかわる事業者すべてが積極的に参加しようという姿勢は十分といえない」
――中間論点整理ではネットの当事者すべてが果たすべき責任について理念を明記することが検討されている。規定が独り歩きし国の直接的規制につながる恐れも指摘されているが。
「ネットコンテンツ問題にどう対処していくのか。非常に難しい問題だ。表現の自由を守る姿勢は大切だが、それだけでいいのか。自主的な対応がなければ公的な規制を招くことは必至。青少年ネット規制法はまさに不意をつかれた格好だ。今はなにかと議員立法で措置が講じられるようになっている。メディア界も具体的な提案や議論をすべきでないか」
「『何人も国境を越え、情報や思想を求め、受け、表明する自由を有する』とした世界人権宣言から今年で六十年。インターネットがこれを現実にした。メリットを最大限生かしデメリットを少なくする努力がすべての人に求められている」
堀部政男氏 専攻はマスメディア法・情報法で一橋大、中央大法学部などで教授を歴任。日本のプライバシー論の草分け的存在。国や自治体の審議会委員などを務め、情報公開法や個人情報保護法の成立に貢献した。昨年、総務省の通信・放送の総合的法体系研究会の座長として報告書をまとめた。現在は携帯サイト向けコンテンツの審査機関の代表などにも就任している。72歳。
ヘッドラインは2008/07/28, 日本経済新聞 朝刊
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