漫画ヒーロー列伝―星飛雄馬から上杉達也へ

日経夕刊のいしかわじゅん氏のコラムより
社会の空気を映す人気ヒーローの歴史を振り返る1回目は「スポーツ漫画」

「脱スポ根 主役の姿変遷」

・最初は牧歌的

伝説のトキワ荘のリーダー格の寺田ヒロオは野球漫画が得意だった。
昭和30年代半ばに少年サンデーで連載された『スポーツマン金太郎』は金太郎がジャイアンツに入って活躍し、ライバルは桃太郎と、実に牧歌的だ。
昭和41年からは少年マガジンで原作梶原一騎、漫画は川崎のぼる『巨人の星』が始まる。主人公は星飛雄馬。
牧歌的な空気は消え父と子の相克がテーマになり、飛雄馬は血反吐を吐き腕の筋肉を壊し、野球生命まで絶たれてしまう。
水島新司の『ドカベン』は、「野球ってのはこんなに楽しい」という見本。

・格闘系も、人気のあるジャンル

昭和26年の柔道漫画『イガグリくん』は大ヒットし、作者の福井英一は手塚治虫を嫉妬させるほどの人気を得た。シンプルな勧善懲悪型ヒーローだが、現在の格闘漫画の原型を作った。
昭和42年から始まった『柔道一直線』では、主役の一条直也の名前よりも必殺技の地獄車のほうが有名だった。原作者は梶原一騎。
同じ梶原一騎原作のプロレス漫画『タイガーマスク』では、主役のタイガーマスクは実際のプロレスにも登場した。

・梶原一騎が導く

ちばてつやが作画を担当した『あしたのジョー』は、『巨人の星』と同時期に同じ少年マガジンで連載して共に大ヒットした。原作者も同じ梶原一騎であった。
このころの梶原一騎は、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで、その作風は「スポ根」と呼ばれ、昭和40年代から60年代にかけて漫画界を席巻していた。スポーツとは「根性」のことだった。
それを爽やかに覆したのが、昭和56年に始まった、あだち充の『タッチ』。
主役は上杉達也であるが、彼に根性はなく、スポ根は単なるパロディの対象になってしまっている。
近年のヒーローでは、世界のサッカー選手が愛読した『キャプテン翼』の大空翼、バスケット漫画の『SLAM DUNK』の桜木花道、『テニスの王子様』の越前リョーマと多士済々だが、既に梶原一騎の呪縛も解けている。

ヘッドラインは2008/11/06, 日本経済新聞 夕刊

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